2023年1月3日、正月ドラマとして 『いちげき』 が放送されました。
この作品は、永井義男による小説『幕末必殺一撃隊』を原作に、松本次郎が漫画化した『いちげき』をもとに、宮藤官九郎が脚本を手がけて再構築した時代劇ドラマです。
主演は染谷将太。物語の中心となるのは、百姓たちで結成された「一撃必殺隊」。幕末の動乱期に、御用盗と呼ばれる薩摩藩の一派と戦いを繰り広げるという、斬新で骨太なストーリーが大きな魅力です。
さらに、新選組が登場するなど、幕末ファンにはたまらない要素も多く盛り込まれており、歴史ものが好きな方には特におすすめの作品といえます。
また注目すべきは、 マンガ版とドラマ版では結末やストーリー展開、さらには死亡する人物までもが異なる 点です。
このブログでは、まずドラマ版『いちげき』について紹介し、その後で漫画版との違いやネタバレ要素についても触れていきたいと思います。
漫画版のストーリーやエンディングも紹介します!
ドラマ版の「いちげき」はこちら
マンガ版の「いちげき」はこちら
原作である小説版『幕末必殺一撃隊』
ドラマ「いちげき」のストーリー・あらすじ(※ネタバレ注意)
それではドラマのいちげきについて紹介していきます。
主人公は染谷将太演じる百姓の丑五郎(うしごろう)
主人公は、染谷将太演じる百姓の 丑五郎(うしごろう)。
漫画版では小柄ながらも頭の回転が速く、剣の筋も良いため、新選組を脱退した島田に気に入られる存在として描かれています。
江戸時代は「士農工商」と身分が分けられていた時代。丑五郎は侍に理不尽な仕打ちを受けた経験があり、それ以来、武士を恨んでいます。ドラマ冒頭でも、侍の試験に向かう途中に侍から道を尋ねられ、答えたにもかかわらず礼の代わりに殴られるというシーンが描かれています。
いちげきのストーリーとあらすじ
物語の舞台は江戸。薩摩藩は幕府を揺るがすために「御用盗(ごようとう)」と呼ばれる一団を組織し、人斬り・強盗・放火といった凶行を繰り返していました。
この状況を危惧した幕府側の 勝海舟(尾美としのり) は、御用盗を食い止めるため、江戸近郊の村から力自慢の百姓たちを集め、私設の部隊を結成することを計画します。こうして誕生したのが、物語の中心となる 「一撃必殺隊」 です。
一撃必殺隊とその訓練
部隊の指導にあたるのは、元新選組で脱退した設定の 島田幸之介(松田龍平) と、同じく新選組の 和田六郎(工藤阿須加)。彼らのもとで、集められた百姓たちは訓練を受けることになります。
隊員はみな村で相撲や力比べに秀でた、運動神経抜群の若者たち。彼らに対し、侍たちは「幕府の命で薩摩藩の御用盗を討ち取れば侍に取り立てる」という約束をします。
当初の訓練計画は半月でしたが、勝海舟の決断によってわずか6日間に短縮。丑五郎たちは 「正面斬り」「突き」「斜め斬撃」 の三種類の技だけを徹底的に叩き込まれ、短期間で戦える兵へと仕立て上げられていきます。
果たして即席の部隊が、恐れられる薩摩の御用盗を討ち取ることができるのか——。
始まりの女郎屋「井村屋」
一撃必殺隊は、「いつ死んでも悔いがないように」と、武士たちから白飯や豪勢な料理を振る舞われます。
※この時代の百姓は白米ではなく、玄米が基本でした。白飯は豪華。
さらに、百姓では到底足を踏み入れられない色街にまで連れて行ってもらえるのです。
隊員たちの行きつけとなった店が 井村屋。
そこで働く女郎・お園(西野七瀬) は、次第に主人公・丑五郎に好意を抱くようになります。
丑五郎はお園に心惹かれつつも、彼女が自分の妹・お千代にどこか似ているため、決して手を出すことはありませんでした。
しかし、実はこのお園に通っていたのが御用盗の 伊牟田。物語の鍵を握る人物でもあります。
丑五郎は金杉橋で伊牟田とすれ違いますが、その迫力に圧倒され、思わず道を譲ってしまう場面も。彼の圧倒的な存在感に、丑五郎の恐怖心があらわになります。
初陣の闇討ち
やがて迎えた一撃必殺隊の 初陣。丑五郎は敵の前之介に斬りかかり、その合図をきっかけに隊全体で挟み撃ちを仕掛けます。結果、見事に御用盗20人を斬り伏せることに成功しました。
しかし、撤退の最中に待ち受けていたのは、御用盗を率いる伊牟田。圧倒的な剣の腕を持つ伊牟田に追い詰められた丑五郎でしたが、土壇場でなんとか逃げ切ることができます。
活躍する一撃必殺隊(世直しウンコ隊) 何度かの闇討ちと失敗
その後も一撃必殺隊は、夜陰に乗じて御用盗を狙った 闇討ち を繰り返していきます。隊員たちの掛け声は「うんこらどっこいしょ」。その独特な掛け声が広まり、やがて民衆の間では彼らは 「世直しウンコ隊」 と呼ばれ、親しまれる存在になっていきました。
御用盗が悪行を重ねる一方で、それを懲らしめる一撃必殺隊は「正義の味方」として人気を集めていったのです。
しかし、そんな中で隊は罠にかかってしまいます。その戦いで一人の仲間が命を落とし、さらに マツが捕らえられてしまう という大きな失敗を経験することに。
※マンガではウンコをまいたから、世直しウンコ隊となります
丑五郎の妹が殺される
捕らえられたマツから村の情報が漏れ、さらに井村屋のお園を通じて丑五郎のことまで知られてしまいます。その結果、復讐に燃える御用盗の 伊牟田 は、東一之江村にいる丑五郎の妹を襲撃。残酷にも妹を殺害し、家に火を放ってしまいます。
最愛の妹を奪われた丑五郎は、深い絶望と怒りに沈みながらも、ついに覚悟を決めます。これまで曖昧だった戦う理由が、明確な「復讐」へと変わり、彼は御用盗を討つことを固く誓うのです。
金杉橋の戦い
物語のクライマックスとなるのが 金杉橋の戦い。ここでは、薩摩藩で御用盗に指示を出していた首謀格・相良(シソンヌじろー) を暗殺する計画が描かれます。
本来、一撃必殺隊には幕府から解散命令が出ていました。しかし、妹を殺された丑五郎や仲間の市造(町田啓太)は復讐心に燃え、隊の士気は衰えるどころか高まっていました。さらに島田もまた、共に戦ってきた百姓たちへの情が芽生え、相良暗殺を決断します。
暗殺の舞台に選ばれたのは昼間。相良ほどの大物を討ち取れば、それだけで大きな成果となると踏んだからです。
血に染まる橋の攻防
当日、雨の降る中で計画は実行されます。金杉橋の真ん中で、肥えを運ぶ車をわざと止め、相良率いる御用盗の一団を足止め。そこから仕掛けるはずでしたが、薩摩藩士に刀を見つけられ、戦闘が始まってしまいます。
乱戦の中で必死に相良を狙う一撃必殺隊。しかし逆に和田(工藤阿須加)が討たれ、さらに井村屋で因縁のある 伊牟田 が現れ、丑五郎は窮地に追い込まれます。そこに市造が割って入り、伊牟田の刃に倒れることに…。
その直後、薩摩藩士の放った銃弾が伊牟田の腹を撃ち抜きます。実は伊牟田は藩の命令に従わない厄介な存在と見なされ、内部から処罰対象とされていたのです。
丑五郎と伊牟田、最後の一撃
混乱の中で丑五郎は井村屋へと逃げ込みます。しかし追いかけてきた伊牟田は、隠れていた梅吉を斬り捨て、ついに丑五郎を見つけ出します。
満身創痍の二人は、剣を地面に置き、最後の一撃で決着をつける覚悟を固めます。座したまま互いに斬りかかり、刹那、両者の剣が激突。折れたのは伊牟田の刀でした。
次の瞬間、井村屋の外へと転がり出たのは 伊牟田の首。復讐を果たした丑五郎は、ついに宿敵との決着を迎えます。
その場に現れた薩摩藩士は「伊牟田は藩の処罰により打首にした」と言い残し、伊牟田の首を持ち去っていきました。
こうして、丑五郎の復讐は果たされ、物語はエンディングを迎えます。
そしてハッピーエンドへ
正月ドラマ『いちげき』は、最後に ハッピーエンド を迎えます。
宿敵・伊牟田を丑五郎が討ち取り、物語は大きな節目を越えます。金杉橋の戦いで捕らえられていた島田も命を落とすことなく、残った隊員たちの前に姿を現します。
島田は「無罪放免」と引き換えに、一撃必殺隊を始末するよう命じられていました。しかし彼はその使命を果たさず、刀を丑五郎に手渡すと力石をして失敗を装い、そのまま立ち去っていきます。
そんな島田を追うのは使用人のキク。彼女は以前から島田に惹かれており、途中でおにぎりを二つ食べてもらっただけで胸をときめかせるほど。その思いを隠さず、島田のあとをついていきます。
一方、刀を受け取った丑五郎は、東一之江村へ戻る途中で百姓たちに頭を下げられます。侍姿のまま歩いていたため誤解されたのですが、彼は島田から受け取った刀を差し出し、
「使えなくなった刀は捨てるだー」
と笑顔で言い放ちます。
こうして、復讐と戦いの物語は光の中で幕を閉じ、明るい余韻を残すエンディングとなりました。
漫画版『いちげき』との違い(※ネタバレ注意)
ここからはドラマ版と漫画版の違いについて紹介します。漫画は全7巻にわたる長編作品で、それを1時間半のドラマに凝縮するのは難しかったのか、随所で大きな改変が見られます。
エンディングの違い
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ドラマ版:基本的にハッピーエンド。宿敵・伊牟田を倒し、丑五郎は復讐を果たします。島田も生きており、暗い余韻を残さず物語が締めくくられます。
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漫画版:一撃必殺隊は丑五郎を除いて全滅。園との別れ以降の丑五郎の姿は描かれず、決してハッピーエンドではありません。
また、戊辰戦争や勝海舟と西郷隆盛の会談、士農工商の廃止など歴史的背景が描かれますが、伝説にある「200kgの石を持ち上げた丑五郎」と一撃必殺隊の丑五郎は別人物として扱われています。
丑五郎の家族を殺した人物
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ドラマ版:妹を殺したのは伊牟田。
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漫画版:伊牟田本人は「自分ではない」と語り、実際に殺したのは与吉という忍びである可能性が高いとされています。
クライマックスの決戦
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ドラマ版:橋での決戦の後、井村屋で丑五郎と伊牟田が一騎打ちし、丑五郎が勝利。
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漫画版:薩摩藩に追われる伊牟田が女郎屋に立てこもり、そこへ丑五郎が突入して決戦に。
キクの存在と与吉の違い 忍びの存在
NHKドラマでは一撃必殺隊の面倒を見るキクという女性がいます。
こちらは途中から一撃必殺隊に入りたいと志願しするのですが、マンガのいちげきではこの位置は与吉というもの。
この者はいわゆる忍びのもので幕府の命令を直接実行するものです。
漫画版の与吉は女に化けたり、恐ろしい殺しの腕前を見せます。
※丑五郎の妹を殺したのもこいつだと思われる
漫画版で与吉は市造にボコボコにされ肩を外され、河に流されますが生き残ります。
その後丑五郎と市造は島田に会いに行き果たし合いをしますが、その際に与吉は島田を殺すために現れますが、与吉と島田は相打ちとなります。
その後与吉は腹を切って死ぬます。
マツをめぐる展開
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ドラマ版:捕まったマツは救出される描写に。
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漫画版:拷問で情報を漏らしてしまったマツを、一撃必殺隊自身が暗殺しようとするシーンがあります。
一撃必殺隊の死者数
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ドラマ版:比較的死者が少なく、和三郎(ワサ/演:塚地武雅)のようなユーモラスなキャラクターも生き残ります。丑五郎の弟も無事です。
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漫画版:前述の通り、丑五郎以外は全滅。圧倒的に悲劇的です。
井村屋の描写
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ドラマ版:NHKらしく色街の描写はソフト。
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漫画版:女郎屋の生々しいシーンがしっかり描かれています。伊牟田が園を抱く場面などもあり、より大人向けの表現になっています。
井村屋はいわゆる風俗の色街のお店ですが、マンガではガッツリエロシーンがあります。
※伊牟田が園を堪忍して~と叫ぶほど抱くシーンがあります
園(ソノ)と丑五郎の今後が描かれていない
女郎である園と丑五郎ですが、恋なのかどうなのかがドラマでは描かれていませんでした。
漫画で園も別に丑五郎のことを好きではなかったようですが、丑五郎が井村屋から園を解放することで園が村に帰ることができます。
園は丑五郎に一緒に誘いますが、丑五郎はまだ片付いていないと一緒に行きません。
丑五郎はちなみに漫画で勃起不全ですが、最後にそれが治ります。
六代目 神田伯山による語りがある
ドラマ版では演出のため講談師、六代目 神田伯山による語りがあります。
当初はいらないかなーと見ていましたが、これはこれで斬新な演出としておもしろかったです。
マンガ「いちげき」はめちゃくちゃおもしろいので読むとハマる
ここまで紹介してきたように、マンガとドラマでは物語の尺の違いもあって、大きく描かれ方が異なります。
個人的にはマンガ版が圧倒的に面白く、最初に読んだときはその緊迫感と切なさ、細かく練り込まれた設定に一気に引き込まれました。だからこそ「宮藤官九郎さんがどうドラマ化するのか?」と期待していたのですが、NHKドラマは方向性を変え、あえて明るい雰囲気にまとめられていました。
もちろんドラマ版もエンタメとして楽しめますが、より深く『いちげき』の世界に浸りたい方には マンガ版を強くおすすめ します。宮藤官九郎さん自身が「映像化したい」と思うほど惚れ込んだ作品でもあるので、ぜひ一度手に取ってみてください。
ドラマ版の「いちげき」はこちら
漫画版の「いちげき」は下記です。
原作である小説版がかなりおもしろそう。

